
スーパーでレジ待ちをしている時、ボーっとレジの人を見ていてある女性のことを思い出しました。
その女性は僕がまだ東京に出てきて間もない頃、新宿ゴールデン街の「深夜+1」という飲み屋にいってた時に、よく居合わせた女性です。
カウンターしかないせまい店だったので、いつしか言葉を交わすようになってました。
いろんなことを話しましたが、ある時彼女の仕事について語ってくれたことを今でもおぼえています。
彼女は北海道から出てきて、色んな職業を転々としたそうですが、いつも「自分の求めていた仕事じゃない。」ということですぐに辞めてしまっていました。
長くて半年しか続かなかったそうです。
そんな彼女がしていた当時の仕事はスーパーのレジ係でした。
もう2年もしているとのことでした。
当初はレジ係も1週間で飽きてきたそうです。
しかし、さんざん転職をしてきてるうえに、次の仕事も決まらない・・・
だんだん自分にも嫌気がさしてくる。
「もう実家に帰ろう」と彼女は思い、荷物を整理していると昔の日記が出てきました。
そこには「私は将来ピアニストになりたい」と書いてありました。
「そういえば、ピアノの練習はだんだんうまくなっていくのが楽しかったな〜。レジ打ちも練習すれば同じようにうまくなるかもしれない。」
そう思った彼女は、レジ打ちを極めてみてからやめようと思ったそうです。
それから彼女は、ピアノのようにボタンを見ないでレジを打つ練習をしました。
慣れてくると、凄いスピードで打てるようになってきました。ボタンを見ないでよいので、お客さんの顔を見ることができるようになりました。
そして、お客さんに声をかけてみるようになりました。
「今日はナスがいいわよ!」などと言ってあげるのです。
そうするとお客さんは笑顔を返してくれるようになり、彼女はだんだん仕事が楽しくなってきました。
ある日のこと、いつものようにいそがしく彼女がレジ打ちをしていたところ、店内放送が聞こえてきました。
「本日はこみ合いまして大変申し訳ございません。どうぞ空いているレジにおまわりください。」
1度だけでなく、何度も放送されるのです。
彼女は不思議に思いまわりを見渡してみると、他のレジは空いているのに、なんと彼女のレジにしかお客さんが並んでいないのです。
彼女の目は涙でいっぱいになりました。
レジを打つことが出来なかったそうです。
その時彼女は、それまでの人生で一番の喜びを感じたそうです。
今のスーパーはバーコードになって久しく、僕もその飲み屋にはずっといってないのですが、元気かな〜?